(披露宴スピーチなう)
「新郎、新婦が出逢ったのは、大学
のテニスサークルで……
(かなり中略)
これからは、お二人が、人生という
ステージでダブルスを組んでいくの
です。(拍手)」
ちょっとベタすぎますけど。
ボジュー♪ 鈴木隆芳(すずきたかよし)です。
夫婦が出会ったきっかけで、最も多
いのが友人や兄弟姉妹を通じての
出会い(29.7%)なのだそうです。こ
れって、「ねえ、◯○ちゃん、いい人
いるから会ってみない?どう?」って
紹介されるのだから、ちょっとカジュ
アルなお見合いなのかもしれない。
それと同じくらい多いのが職場や仕
事での出会い(29.3%)です。
職場や仕事で出会うということは、相
手と同じ環境を共有しているので、も
のの見方や考え方が似てくるはずです。
似ているといっても……
「オレ、エビの尻尾、食べない人だから」
「あっ、ワタシも!」
「♥!」
「♥!」
「結婚して下さい!」
「はい、喜んで!」
……のようなことではなく、職業や学
歴など、もっと現実的なことです。
いわゆる結婚についての価値観ね。
あくまでもイメージだけど、高収入の
仕事というと医師や弁護士。
職場や仕事での出会いが多く、そこ
での価値観に重きを置くとすると、こ
うした高収入の男女どうしで結婚する
可能性も高まるはずです。
また、それとちょうど反対のことも言え
ます。
低収入者どうしのカップル。
このような結婚が増えれば、結婚は収
入格差を拡大します。
「夫の収入が高ければ妻は働かない」
という例が減ってきているからです。
そこでは、高収入どうしの夫婦、低収入
どうしの夫婦と二極化してしまい、これ
が社会の階層化を招くかもしれないの
です。そして、本当の問題は、こうした
格差は、再生産、つまりは子の世代に
繰り返される、ということなのです。
それは、両親が供する教育の機会や
質が、そのまま後の世代に引き継が
れるということです。
「え?それでなにか問題ありますか?」
という意見もありますが、こうした、子供
本人の原因に帰することのできないス
タート地点での不平等による社会の階
層化は、やはり困った問題だと思います。
というのも、格差とは、単に収入のちが
いのことではなく、考え方やものの見方
のちがいを意味するからです。
格差が広がったために、異なった階層の
人どうしでは「話しが通じない」というのは、
社会にとって好ましいはずはありません。
そもそも、結婚できるかどうかについても、
事態はかなり深刻です。
男性の約5人に1人は生涯未婚です。
男性の場合、年収300万未満の場合、「恋
人なし」「交際経験なし」が、65.9%にも上り
ます。
一方で、300万以上だと、年収と、恋愛や結
婚の間には顕著な関係はありません。
つまり、男性が交際や結婚にいたるための
ボーダーラインは年収300万。
そこから単純に解決策を導くとすれば、男
は稼ぐべし、ということになります。
女性の93.9%は、男性の経済力を「重視す
る」ないしは「考慮する」と回答していますし、
ひとまずは、この収入面から考えてみること
にしましょう。
「ひとまずは」ですけど。
では、300万のボーダーラインをクリアする
にはどうしたら良いでしょう?
二つの方法があります。
1.そういう社会(300万以上稼げる社会)を作る。
2.そういう人(300万以上稼げる人)になる。
なーんだそんなことか、と思うでしょ、
でも、これが意外と厄介な問題だった
りするのです。
まず、1からいきますと、皆が、ある程
度稼げるようになるためには、全体的
な賃金のアップが必要です。
でも、これがなかなか実現しない。最大
の原因は、賃金が上がると人件費が高
くなり、それが商品の価格に反映して売
れなくなり、結果、企業の競争力が落ちる、
と考える経営者が多くいるからです。
「皆さんの要求をのんで、賃金を上げて、
会社が倒産したらどうしてくれますか?」
と、詰め寄られると、気勢をそがれること
でしょう。
また、ほとんどの人は、労働者であると
同時に、消費者としても社会に関わります。
この二つの立場が、相反する欲求を生み出
します。安い商品と高い賃金を同時に欲す
るのです。
さらに、ほとんどの人にとっては、労働者と
して関わる社会よりも、消費者として関わる
社会の方が、はるかに広いのです。
そこから、徹底して安い商品を求め、それを
作るために働く人のことなどお構いなし、と
いう消費者マインド優先の社会ができあが
ります。
しかも、これは消費者としては咎められるこ
とのない「正しい」振舞いなのです。
安い商品と高い賃金、もしこれが難なく
共存するなら、それは、そうとう恵まれた
社会でしょう。
賃金を上げるために働きかけることの難
しさの原因をたどっていくと、労働者VS
消費者という、分裂し、矛盾した欲求に
行き当たります。
100円ハンバーガーと、時給1000円を同
時に実現するのはむずかしいのです。
では、次に2の「本人が努力する」は、ど
うかというと。
こちらも、一見、簡単なように見えるけど、
実は、そう一筋縄ではいかない。
ここでも、矛盾した欲求に私たちは引き裂
かれます。しかも、これは本人とって、さら
に自覚しにくい。「結婚を望みながら結婚
を望まない」ということを私たちは知らず
知らずのうちにしている可能性があります。
次回はそんな話しを。
今回の参考図書:橘木俊詔・迫田さやか著
『夫婦格差社会――二極化する結婚の
かたち』中公新書、2012年。
本文中での数値等は本書を参照しました。
結婚に焦点を絞り、経済学の観点から論じ
ている本です。シビアな現状分析と、ハート
フルな激励に著者の誠意を感じます。きっと、
そこに読者は惹かれるのだと思います。結
婚したい人は読んでね。あと、著者の橘木
先生、迫田さんのお二人ともフランスがお好き
だと聞き及んでおります。トレ・ビアン!です。
ついでですが、
『夫婦格差社会』については、私が書いた
書評があります。
いつでも、だれでも、何度でも、無料でダウ
ンロードできます。
http://www.osaka-ue.ac.jp/keidaigakkai/journal/64_1/
画面の中程、書評の欄をクリックするとご覧になれます。
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- 2014/06/05
- 経済学部
コメント
鈴木先生
拙著「夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」について書評を書いて頂きました際には大変お世話になり,ありがとうございました。
再び,このような機会で取り上げてくださいましたこと,厚く御礼申し上げます。
「格差が広がったために、異なった階層の人どうしでは「話しが通じない」というのは、
社会にとって好ましいはずはありません。」というのは大変鋭いご指摘だと思います。
一国の中に二つまったく違う社会階層ができる,そうすると社会は不安定になり,あらゆる政策・政治・社会制度は有効でなくなるはずです。
実は!(実でもないのですが)今年度はフランスに滞在しております。
鈴木先生のご専門分野に来てしまったのです。こちらに来て,格差について研究しようとすればするほど,多くの分野について勉強する必要を感じています。またご教授くださいませ。
迫田さやか