クイズ! 次の短歌Aと短歌Bでは、どちらが良い歌でしょうか?
A 空き巣でも入ったのかと思うほどわたしの部屋はそういう状態
B 空き巣でも入ったのかと思うほどわたしの部屋は散らかっている
(穂村弘さんの『はじめての短歌』を参照しています。)
鈴木です さりゅー
文章の書き方を指導をされたことってあるでしょ。
そんな時、先生に「もっと簡潔に」とか「もっとわかりやすく」とか言われませんでしたか。
たしかに、そうした簡潔で平明、かつビジネスライクな作文が求められる場面は少なくありません。
連絡のメールもしかり、集合の場所や時間などの用件が正確に伝われば事足りる。
休講の掲示もそうだね。何曜日何限が休講ってわかれば、ラッキーってなるし?!
でもね、そうではない世界があるんです。わかりやすくちゃだめな世界が。
冒頭の短歌のクイズ、正解はAです。Aの方が良い短歌。
Aの短歌「そういう状態」と言われるといろいろ想像が広がるけど、一方で、
「散らかっている」と言われれば「ああそうですか」と納得して終わり。
このAの短歌を作った平岡あみさんは当時中学生くらいだったそうです。
たしかに、「そういう状態」ってどんな状態なのかすごく気になりませんか?
なにかただならぬことが起こっている感じ。
でも、これって、ビジネス文書や実用書のお手本にかなり逆らってますよね。
一番肝心なところが「そういう状態」、つまりXのままなんだから。
詩歌の価値が、モノの交換を扱う経済の価値と異なるのはこの点です。
経済上のコミュニケーションの利点は、なんと言っても、
価値が貨幣というグローバルな交換価値に還元されること。
要するにHow much is this?というコミュニケーションのスタイルで、
国境を超えてだれとでも通じ合える。
どんな得体の知れないものでも、その値段がわかるとちょっとほっとするでしょ。
その一方で、私たちはこうしたグローバルな価値の世界とは別の
もうひとつの価値の世界にも属しています。
その世界とは、交換可能な価値に還元できない価値の世界。
唯一無二の価値の世界。
会社では課長の代理は必要。課長は同じ内容の仕事ができる人がいれば代わってもらえる。
でも、その人が帰宅してお父さんになると、お父さんに代わりはいない。
それに、お父さん代理がいつも控えている家庭なんて困るでしょ。
同じ人物が、ある時は課長で、ある時は父親というように二重の生を生きている。
「ぼくにとって、きみはこの世界でたったひとりの男の子になるよ。
きみにはぼくが世界でたった一匹のキツネになるんだね。」
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)
交換できる世界と交換できない世界、というように二重の世界が交錯している。
労働・生産・消費などは前者の交換できる価値をやり取りする世界。
交換できるからこそ価値が生まれる世界。こちらも生きていくのには不可欠。
その一方で、詩歌は交換できない価値を扱う世界。
他のもので置き換えることのできない唯一無二の意味や価値を重んじる世界。
その証拠として「××は○○を意味しています!」などと明言せずに、
肝心なことをXにしたまま読み手に差し出した方が良い歌になります。
ためしに下の二首でどこがそのXに相当するかわかりますか?
たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思ひき 近藤芳美
貪欲な兎をゲージに飼っておくそういう罪を毎日犯す 鈴木晴香
恋人の姿が霧に隠れた時、ふと聞こえてきた「或(あ)る楽章」って、
いったいどんなメロディーなの? それってだれのなんていう曲?
「貪欲な兎(うさぎ)」っていうけど、それってどんな兎?
その兎をおりに閉じ込めて飼うことって、いけないことなの?
もしかしたら逮捕されちゃう?
とか、具体的にはわからないまま。
でも、そこがいいんです。いろいろ想像できちゃうし。
それに、この場合の想像って、でたらめな妄想とはちがって、ある程度は共有したり共感できる要素がありませんか?
「あーあのことじゃないかな」と思い当たる。
こうした詩歌の価値について歌人の穂村弘さんが書いた本、『はじめての短歌』。
鈴木ゼミの教科書の一冊。
短歌の入門書という形をとっていますが、あまりそんな感じはしません。
むしろコミュニケーションに悩んでいる人におすすめします。
コミュニケーション用の「伝わる言葉」と、詩歌の「印象に残る言葉」、
この二つの言葉の世界ってどうなっているの?ということがわかります。
ここぞという時に人に差をつけたい時のマニュアルです。意外なほど用途は広いね。
本書の書評を書きました。以下からダウンロードできます。こちらも是非。
こんにちは。経済学部教員の上宮智之です。
大学はもうあと1か月ほどで春学期が終わります(大学は春と秋学期の2学期制)。
講義が佳境に入るこの時期(6月末から7月上旬)は夏の学会シーズンでもあります。
大学教員は、普段講義をしているだけではなく、週末を中心に、各地(国内や海外)
で開催される学会や研究会にも参加します。そこでは新しい研究成果を聞いたり、
みずからの研究成果を発表したりします。
上宮も最近,学会や研究会のために,仙台や福井に出張しました。
学会出張は、あくまで研究のためですが、空き時間を利用して研究者仲間たちと
観光する・美味しいものを食べる、という楽しみもあります。
お土産選びも毎度楽しみにしています。
今週末(6月28日・29日)は、マルサス学会に出席するため、
北海学園大学へ行きます。そう!北海道!学会がなくても,
共同研究の関係もあって,上宮は年に2回以上のペースで北海道を訪れています。
何度行っても北海道は楽しく,美味しいものがいっぱい。あまり時間がないとき
でも新千歳空港のお店を見て回るだけでも十分に楽しめます。
ときとして研究がうまくまとまらずに落ち込むこともありますが,
学会出張は密かに毎回楽しみにしています。それでは北海道にいってきます!!
ボジュー。こんにちは。経済学部の鈴木隆芳(すずきたかよし)です。
このブログが皆さんのお目にとまり嬉しく思います。
6月に入り、就職活動中の4年生の中には、
企業から内定(「うちの会社に来てね」という約束みたいなもの)をもらった学生もいます。
さて、突然ですがここでクイズです。
そんな企業が学生に求める能力の1位はなんだと思いますか?
資格? 成績? 英語? 専門知識?
これらも大切なはずだけど、正解はちがいます。ダントツ1位があります。
その能力はここ10年近く連続1位ですから、まさに圧倒的なのですが。
さて、それは……
コミュニケーション力です。
……うーん、わかるような、わかんないような
でも、ところで、コミュニケーション力ってなんでしょう?
楽しくお話ができること。人前で発表できること。そんなイメージではありませんか?
そのとおりだとは思うのですが、ただ、それだと人見知りの人や、
引っ込み思案な人ってすごく不利になってしまいますね。
でも、本当のコミュニケーション力って、それだけではないと私は思います。
もっといろいろな可能性があるはず、とね。
平田オリザ先生が言っていたことですが、今の若年層(皆さんのことですよ!)は、
中高年世代(私のことです(涙))よりも、コミュニケーション能力が実はずっと
高いのだそうです。ファッション・センスにすぐれて、ダンスや歌が上手くて、携帯
メールやSNSを巧みに使いこなして、幅広く自分を表現できる。一方で、おじさんは、
服はダサイし、カラオケじゃ昔の歌しか歌わないし、ダンスは見るも無残、メールも
なんだか意味不明。(ちょっと極端かな)
そこで、そんな人たちとは関わりたくないって気持ちはすごくわかるんだけど、
そう簡単にはいかないのが困ったところ。だって、社会の中核にいるのは、
なんだかんだ言っても、そんなわけのわからない中高年の大人だからです。
将来、皆さんにどんなに行きたい会社があっても、その人たちから「いらない」と
言われたらそれでハイ終了!なんです。困ったねー。どうしよー。
えっと、今回はここまでです。対策は次回考えましょう。(←「おいっ(怒)話しが
途中じゃないか」というお叱りはごもっとも。でもね、あんまりいっぺんに書いちゃいけないんだってさ。)
今回の参考図書:平田オリザ『わかりあえないことから―コニュニケーション能力とは何か』講談社現代新書。
「わかりあえないことから」というテンションの低さがラブリーです。
私の授業でも使っています。コミュニケーションって人見知りでもいいんだ、と納得しました。おすすめです。
つづく(といいなー)